ワンコイン・ムービ-レビュー

ワゴンセール等で500円程度で投げ売りされている映画を愛するブログ

バトルフィールド・アビス

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あらすじ

「バグったジジイとクジラの輪舞」

 

 1969年、体長150mの超巨大クジラによりアメリカ海軍の潜水艦がチューペットのように真っ二つにされる。かろうじて生き残るも片足を失った一兵卒は超巨大クジラに復讐を誓う。

 

 時は流れて2010年。隻脚の元一兵卒は経験を重ねて原子力潜水艦の艦長になっていた。彼は軍の指揮系統から逸脱、自己中をオーバーブーストさせて超巨大クジラを倒すべく原潜という牙を剥きだしにする。本作はそんな彼の微笑ましいバグり具合を愛で楽しむはじめてのおつかいムービーである。

 

 クジラを倒すにはクジラの専門家や!の精神により、艦長は海洋学者の中年女性の釣り船に原潜を横付けする。「協力してください博士。協力してくれなければ強制的に協力させますよ」と告げる副官の姿からは協力という自発的な人類愛の精神が湧出している。日帝のごとく博士を強制連行することに成功した艦長。しかしこの博士は大した働きを見せることはない。クジラのなき声のカセットテープを使って超巨大クジラをおびきよせただけで、後は「こんな作戦は無意味よ」と叫ぶ壊れた九官鳥として鎮座する。88分間。ちなみに彼女の相棒として登場した面白黒人は全く面白くないままいつの間にか死亡していた。

 

 超巨大クジラとの格闘戦が始まった。原潜の放った魚雷は易々と回避される。すると艦長は即決する。「核ミサイル発射!」オイオイオイ死ぬわ艦長。核の殺傷半径考えて発言してくれませんかね。刹那、ネズミを倒すべく地球破壊爆弾を投入せんと目論んだ129.3kgの22世紀が私の脳裏をタイムパトロールした。フヒーッ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ。

 

 放たれた核ミサイルは偶然近くを泳いでいた無関係のダイオウイカさんを無残に爆殺しただけで超巨大クジラはノーダメージ。逆に潜水艦は超巨大クジラの反撃でダメージを受け潜水機能を失ってしまう。すると艦長は即決する。「陸戦隊突撃!」オイオイオイ死ぬわ兵隊。前述したとおり超巨大クジラは体長150mである。陸戦隊の持つ歩兵用小火器の一撃など蚊が刺したほどにしか感じないだろう。

 

 そんなの関係ねぇとばかりに艦長は陸戦隊を率いて島に上陸する。そこには廃墟があった。艦長は知識を披露する。「ここには昔ハンセン病患者を隔離する病院があったんだ。見ろ、あの十字架を。あれはこの地で患者のために尽力した医師の墓標だ」語り終わるが早いか艦長は十字架を引き抜き、自分の義足の代わりとして運用する。いい具合だとは彼の弁だが、墓標の価値低すぎませんかね。もちろんハンセン病がどうとかいう設定は風呂の中のチン毛と同じぐらいの意味しかないので無視してもらってかまわない。

 

 そして案の定期待通り、兵隊たちは「ファイアー」と叫びながら棒立ちでライフルを撃つという、低予算映画界が誇る無形伝統文化財の演舞を披露して黄泉の国へと旅立った。艦長にいたっては1人モーターボートに飛び乗り「ウホホホォーゥ」と叫びながら超巨大クジラに突撃をしかける。ちなみに武装はモリである。私の脳裏を「バンザイ・アタック」という文字列が流れていったが気のせいだろう。ラストは原潜の残存魚雷によるフレンドリー・ファイアによって艦長含むバカ共が無事死亡。超巨大クジラは海に帰り、強制連行された女博士が海に投げ出されて漂流するという悲惨極まるフィナーレである。

 

 本作は優れた作品かと聞かれたら、私はNonと即答するだろう。潜水艦映画にキングボンビーの様についてまわる「海中のバトル暗すぎてなにがどうなってるのかわからない問題」はもちろん標準搭載されている。クジラの大きさを表現するためだろうか、やたらとクジラをアップで接写する構図は大きさに係る比較対象を欠いているため何の説得力もない。それどころかアップのせいでCGの粗さがより際立つ副作用を招いている。艦長を除いて魅力のかけらもない登場人物たち。そう、艦長を除いて。

 

 冒頭で述べた通り、本作がかろうじて500円玉と同じ重みを保っていられるのはひとえにこの盛大にバグっているジジイのおかげである。アメリカ海軍原子力潜水艦艦長という責任ある立場にありながら、私怨を優先し、指揮系統を放棄、部下の命をフルスイングでドブに投げ捨て、下す命令は精神の均衡を欠いている。現実にこんな奴が存在していたら確実に即決裁判で銃殺である。しかしフィクションにおいては?こいつがこれぐらい大きくバグってくれたからこその物語。ソファに寝ころび、かき氷を食べながら見る分には、本作は十分及第点である。

 

 

総合評価・星3つ(500円の価値有)

★★★☆☆

 

以上